2016年1月10日日曜日

アルバム『Constructs Of The State』 解説・レビュー


アルバム『Constructs Of The State』がリリースされて以降、自分はこれ以外のパンク作品が聴けない状態にいる。

Leftöver Crackの11年ぶりとなるフルアルバム『Constructs Of The State』がリリースされてから1ヶ月余り経つが、アメリカの巨大パンク通販サイト Interpunk では売上ランキング1位の状態が続いている。大手パンク情報サイト Punknews.org ではスタッフの Ricky Frankel 氏によって2015年のベストアルバムに選ばれた。このアルバムが波紋を呼んでることは間違いない。

言うまでもなくLeftöver Crackは“Crack Rock Steady”のリーダー的存在であり、その音楽性に影響を受けたバンド(いわゆるフォロワー)が数多く誕生している。昨今、彼らフォロワー勢の作曲センスは高まってきており、先輩であるLeftöver Crackを追い抜いてしまうんじゃないかと思うような素晴らしい作品を作り上げている。しかし、今回そんなフォロワー勢を圧倒的な力でねじ伏せてしまうかのような強烈なアルバムをLeftöver Crackが作り上げてしまった。そんなLeftöver Crackのニューアルバム『Constructs Of The State』について徹底的に解説・レビューしていきたい。


やはり特筆すべきはゲストの多さ。
クレジットを見ると、ゲストの名前がびっしりと書かれている。無名のアーティストから大物まで様々。未だかつてこんなにゲストが登場するパンク作品はあっただろうか。凄い所で言うと、80年代UKアナーコ・パンクの代表格バンドCRASSのドラマーであったPenny Rimbaud氏の名が(彼が御歳72歳だということにも驚きだが)。
Crack Rock Steayはあらゆるジャンルの音楽を飲み込む形態から、あらゆるアーティストを飲み込む形態に進化してしまったようだ。
もちろん、これが出来るのはLeftöver Crackだけだろうが。登場するゲストを楽しみながら聴くのが今回のアルバムの醍醐味だろう。

さて、サウンドはと言うと、前作の『Fuck World Trade』に比べて間違いなくハードさがアップしている。前作はかの同時多発テロを題材にしたこともあってか、まるでテロの犠牲者を偲ぶような暗いサウンドになってる印象を受けたが、今回のサウンドはまさしく音で押し殺すような力強いサウンドになっている。ハードコア~クラスト度を増強させながらそこにスカをブレンドし、フォークやスラッシュメタル、オールドロック、エレクトロニックといった要素をもブレンドさせ、これまで以上に色んな要素が絡み合っているので楽しくて仕方が無い。こんなパンク作品は唯一無二であり、自分がこれ以外のパンク作品を聴けない所以はこれだ。

アルバムを聴いてると、中でも一番楽しませてくれたナンバーは『System Fucked』だ。90年代スカコアムーヴメントの筆頭、Operation Ivyでボーカルを務めたJesse Michaelsとの奇跡の競演ナンバーなんだから、スカコアファンの心が躍らないわけがない。

他のスカのナンバーを見ていくと、『Corrupt Vision』はスカからクラストへの変貌ありのまさしくCrack Rock Steadyなナンバーだ。気付いてない人が多いと思うが、この『Corrupt Vision』と『¡Poliamor Fiesta Crack!』はNo Commercial Valueのナンバーをリメイクしたナンバーになっている。(No Commercial Valueを知らない人はこちら)No Commercial Valueの音源を持ってる人はぜひどの曲かぜひ探し当ててみて欲しい。

これらの曲以外にも、今回のアルバムは色んな所から音源を引っ張ってきている。一際湿っぽいナンバー『Last Legs』はフォーク・パンク・バンドBlackbird Raumのカバー曲であり、本人らも歌う豪華仕様になっている。この曲のしっとりさが次のハードなナンバー『The Lie of Luck』を一層際立ていて最高だ。なお、オリジナルは2015年作のアルバム『Destroying』で聴くことができる。

アルバム最後のナンバー『The War at Home』に至ってはIntro5pectの2007年の作品『Realpolitik!』に収録されているナンバーをそのまま持ってきたナンバーだからもはや反則。しかし文句の付けようがないこのかっこよさ。こんないけいけどんどんなナンバーを聴き終わったあとにやってくるのは間違いなく祭りの後感なわけで、めちゃくちゃ罪なナンバーです。

その他の解説しておくと、メロディックなリフと疾走感とシャウトが最高な『Bedbugs & Beyond』で歌ってる女性はカリフォルニア州オークランドのハードコアバンド REIVERS のKate Coysh。無名に近いアーティストを起用してのこの仕上がり度、パない。

今回のアルバム、女性ボーカルの起用率が高いので間違いなく感じられるのはStar Fucking Hipstersっぽさだろう。これは勝手な解釈だが、女性にも主張する権利があるんだぜというStzaの思いがあるように感じられる。無名のアーティストを多く起用してるのは、アンダーグラウンドシーンで必至に叫ぶ彼らの存在や主張にもっと目を向けるべきというStzaの思いやりがあるのではないかと。実際、StzaとNoFXのFat Mikeはアコースティック演奏するSamというホームレス女性の動画を見て、共同で彼女をプロデュースさせたという話がある。彼女は Closet Fiends の名で今度Fat Wreck Chordsからデビューする。

色々書いてきたが、個人的に一番好きなナンバーだけ言っておくと『Don't Shoot』だ。ザクザク刻むリフがかっこよく、歌詞がアンチポリス的な歌詞で、Stzaのシャウトがキマってて、一番Leftöver Crackらしさが出てるようなナンバーなので。そんなStzaも今年で40というから、まだまだ頑張ってもらいたい。

最後に、今回のアルバムのクレジットにはEzraの名前は書かれていない。EzraはもうLeftöver Crackのメンバーではないということを我々は再認識しなければいけないが、次はMorning Gloryや再始動したPublic Serpentsとのコラボがあるかなと期待しつつ、他のフォロワー勢の作品も楽しみにしたい。

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